灰釉という言葉を聞いたことがあっても、それが具体的に何を指すのか知らない方は多いと思います。灰釉は、木や藁を燃やした灰を原料とした釉薬です。薪窯の中で灰が器に降り積もり、高温で溶けることで生まれる釉調は、化学的に調合された釉薬では再現できない偶然性を持っています。

灰釉とは何か

灰釉は、植物の灰を水に溶かして精製したものを釉薬として使う技法です。木灰、藁灰、籾殻灰など、原料によって溶ける温度や色が異なります。益子では主に木灰(楢や桜)を使います。灰に含まれるカルシウムやカリウムが高温で溶け、器の表面にガラス質の層を形成します。化学釉薬と違い、同じ灰でも採取した木の種類や季節によって成分が変わるため、毎回同じ結果にはなりません。

薪窯の中で何が起きているか

薪窯では、薪を燃やすことで生じる炎と煙が窯内を循環します。この過程で、燃えた薪の灰が空気中に舞い上がり、器の表面に降り積もります。これを「自然降灰」と呼びます。降り積もった灰は、窯内が1,250度から1,300度に達すると溶け始め、器の表面を流れます。この流れ方が、灰釉特有の表情を生み出します。炎の当たり方や窯内の位置によって、同じ器でも表と裏で全く異なる釉調になることがあります。

益子赤土との相性

益子の赤土は鉄分を多く含むため、灰釉との組み合わせで独特の色が生まれます。鉄分が多い素地に木灰釉が掛かると、焼成中に鉄と灰の成分が反応し、緑がかった釉溜まりや黄褐色の流れが生じます。この反応は、白土や磁器土では起きにくいものです。益子の土を使う理由のひとつは、この化学反応の豊かさにあります。

薪窯焼成の時間と手間

電気窯やガス窯と比べ、薪窯焼成は時間と手間がかかります。Stonebridge Pathでは一回の焼成に七十二時間かけます。最初の二十四時間は低温でゆっくり水分を飛ばし、その後温度を上げていきます。薪の投入は二時間おきに行い、焼成中は誰かが常に窯の前にいる必要があります。この手間が、電気窯では出せない深みのある焼き上がりにつながっています。

灰釉の器の使い方と手入れ

灰釉の器は、使い始める前に「目止め」をすることをおすすめします。米のとぎ汁に三十分ほど浸けてから使うと、素地の細かい穴が塞がれ、汚れが染み込みにくくなります。使用後は中性洗剤で洗い、よく乾かしてから収納してください。食洗機は避けた方が無難です。長く使うほど、器に風合いが増していきます。

灰釉の器は、使うたびに少しずつ変化します。それを育てる感覚で、日常の食卓に取り入れていただければと思います。工房からの覚え書きでは、焼成の記録や釉薬の実験についても随時書いています。